2020年2月2日

バラゴグ・グラ・ノロブ


街道沿いとはいえ人通りの少ない山道中腹にある宿屋、ナイトゲート。
そこにひとりのオークの女が大金を前払いし長期滞在していた。バラゴグ・グラ・ノロブと名乗るその女は自称作家だという。



昼間はほとんどの時間を宿のそばの湖畔に座り込んで景色を眺め、時折獰猛なスローターフィッシュを釣り上げてきたり、野山を歩いて食べられる野草を摘んできたりと、気ままな日々を送っていた。




ナイトゲートにはまた大きな浴槽を備えた風呂場があり、バラゴグのお気に入りとなっていた。



彼女が滞在する間は浴場の薪を切らさずに燃やし続ける様、宿代に燃料費や手間賃を十分に乗せて払い込んだバラゴグは、朝に夕に気兼ねなく湯浴みを楽しむのだった。


地下のワイン蔵の並びの部屋を自分の部屋とし、食事も宿で注文することなく、肉や野菜を買い求め釣り上げた魚や摘んできた香草と共に自ら調理し、ここで食べていた。


「今日の夕食は、スリリー兄弟のワインに、前菜はリーキのグリルと新鮮なスローターフィッシュの焼き身、メインはホーカーのシチュー、デザートにハニーナッツのおやつ。ではいただきます♪」


「流石はスキングラード産、スリリー兄弟ゆかりの農園で作られたワイン。貴婦人のドレスの様な滑らかな味わい……」

「リーキもスローターフィッシュもとても新鮮♪ シンプルな味付けだけれどこの香りと歯ごたえがたまらない」

「そしてこのホーカーのシチュー♪ 柔らかくなるまでじっくり煮込んだ濃厚なお肉と脂の旨味、そして香草の香りとトマトの酸味が渾然となって鼻へと抜ける……」

「最後に蜂蜜とナッツのこの組合せ♪ まさに有終の美を飾るデザートね」


「はあ……すごく……美味しかった……」

いつしかオーク少女の手は股間に伸びていた。
彼女は食事をとった後、舌に感じた美味が性的快感となってその身に訪れるという特異な体質を持っていたのだ。


ワインの味わいが、まるで息のあった兄弟に挟まれ全身を同時に優しく愛撫されているかのような感覚に置き換えられて蘇り、少女の腿の付け根の襞の中心付近がうっすらと潤いを帯びてくる。


リーキとスローターフィッシュの味は、若さに溢れたたくましい肉体に押し倒されて全身をしゃにむに貪られ、愛撫しあっている様な心地。


「ああ……駄目。パンティ脱がないとびしょびしょになっちゃう……」

少女は決壊寸前の花園を覆い包む布を自ら抜き去り、更なる大波へと自らの身体を委ねてゆく。


そしてホーカーの圧倒的な肉感と旨味に圧しかかられ、無抵抗のまま身体の中心を繰り返し貫かれる様な快感に翻弄される。


最後にデザートのハニーナッツのカリカリとした歯ごたえと香ばしさ、甘さがもたらす、不意に悪戯の様に首筋や乳首を甘噛みされる様なくすぐったさと切なさに浸る。


「はあ……すごく……気持ち良かった……」

その時……
「それ」は突然やってきた。食材調達のため大自然の中に分け入った時、獰猛な肉食獣に感じる様な気配と殺意。


全身に怖気を覚えながらバラゴグはテーブルの上から彼女の武器、右手に「ナイフ」、左手に「フォーク」を握りしめ、戦闘態勢を取った。


部屋の入口から音も無く表れたのは、バラゴグに比べて遥かに長身の、全身を黒い革鎧で覆った男だった。
瞬時に戦闘態勢を取り武器を構えたバラゴグと対峙しても、無駄な動きを見せることは一切なく隙が見えない。それならこちらから仕掛けてこじ開けるまで。オークの戦闘本能がふつふつと滾る。


「おおおっっ!!」


唸り声を上げ未知の刺客へ突撃を敢行する。
スカートが翻り、濡れたままの股間をすっと冷ややかな風が撫でてゆく。その頼りない感覚を呑み込み押さえつける。
構えは左右対称。ナイフが切り刻むか、フォークが突き刺さるか、どちらが来るか相手には最後の瞬間までわからない。


だが超至近距離で繰り出されたナイフの稲妻の様な速度をものともせず、男は合わせた様にするりと体を開き必殺の一撃を容易くかわした。


バラゴグは身体を戻して次の手を繰り出そうとするが、男はそれを許さなかった。バラゴグの戻りに合わせて身を躍らせ前転。


意表を突いてナイフとフォークの攻撃範囲を潜り抜けた男は、棒立ちのバラゴグの太腿の間に顔を埋める格好となっていた。


先ほどまでの美味の官能に酔いしれ濡れそぼった陰部を至近距離で観察され、その匂いと温もりまでもが露わにされてしまった羞恥に、バラゴグは思わずナイフとフォークを取り落とし、股間を押さえてうずくまる。


気づいた時には男の持つ鋭い短剣の切っ先がバラゴグの頭上に突き付けられていた。


バラゴグ・グラ・ノロブは黒ずくめの男に敗北したのだった。


∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫



-- 実に運が良かった

オークの少女は服と靴を脱ぎ白いタイツのみを残してベッドに乗り、うつ伏せになって高々と上げた尻をこちらに向けている。艶やかに引き締まりながらも丸く豊満なラインを描く双臀を眺めながら、ドヴァキンはそう思っていた。


皇帝暗殺計画の仕込みのため、正体不明の「美食家」の通行証を奪うのが目的だった。そのために「美食家」の居所を聞き出し、この宿屋ナイトゲートまでやってきたのだ。


「美食家」の正体がオークだと聞き、戦いは避けられまいと思っていた。実際、ナイフとフォークを構えた「美食家」からは一筋縄ではいかない燃え盛る闘気が発せられていた。


だがそれはどうでも良い。どのような相手でも戦って負けることはまずないし、戦わずとも屈服させ服従させる方法はいくらでもある。幸運だったのは、「美食家」が屈服させる価値のある相手だったことだ。


人間から見てオーシマーの実年齢は計りにくいが、少女の様に小柄で肌には潤いと張りが満ちており、引き締まり筋肉質の身体にたわわな乳房がこぼれんばかりに実っている。顔立ちもオークにしては丸っこく愛らしい。


この女を今から、獣欲の赴くままに犯すことができるのだ。反り返った欲望を雌穴の入口に突きつけると、愛液に塗れて熱を持った陰唇と、嫌らしい涎を垂らした男の鈴口とが絡み合い、淫靡なキスが交わされた。


そしてドヴァキンは「美食家」バラゴグ・グラ・ノロブの身体の中心を、深々と貫いた。


「か……はっ……」

圧倒的だった。ごつごつした筋肉に覆われた大柄な男の身体が、同じ様に筋肉質でありつつもしなやかな曲線美で形作られた小柄な少女の身体に覆いかぶさり、女の急所を突き刺していた。


息をすることもしばし忘れるほどの衝撃。ドヴァキンは一切の遠慮なく一気に最奥部まで挿し込んできた。バラゴグの内壁が柔軟に伸縮してそれを受け入れながらきゅっと締め付ける。ドヴァキンの男性器とバラゴグの女性器が、ほんの僅かな隙間も残さず完全に密着している。力でねじ伏せた女を相手に、互いの肉体の最もプライベートな部分を隅々まで無理矢理に触れ合わせる。これこそが女を犯すという行為であった。


「美食家」バラゴグ・グラ・ノロブは、その肉体は、ドヴァキンによって征服され蹂躙された。その事実が互いの意識に刻み込まれる。あとは男は女の身体を存分に使って淫楽を享受するだけだった。そして女はその熱に、肉体を、思考を、心をどろどろに溶かされてゆくしかなかった。


「あっ! あっ、はぁっ、はっ!」

ドヴァキンは無言のまま腰を動かし、バラゴグは荒い息遣いで切ない悲鳴を絶え間なくあげ続ける。もう何度絶頂に追いやられたことだろう。舌で味わった美味しさが性的快感に変換されるバラゴグの体質が今や逆流し、逞しい男根に肉襞を執拗に擦り上げられる性的快感が例えようもない美味に変換されて、バラゴグの舌を、口腔を、食道を、胃袋を、精神までをも暴力的に侵しつつあった。


キジのロースト、マンモスステーキ、鹿肉シチュー、ドラゴンブレス酒……。似たような味わいを持つ料理はいくらでも思いつくが、今味わっているのは、それよりも遥かに濃厚で、鮮烈かつ衝撃的な、深く力強い旨味であった。

-- まさに、無類の味わい……

遠のく意識の中で「美食家」バラゴグ・グラ・ノロブの脳裏をそんな言葉がよぎっていた。


-- ビュッ、ビュルッ! ピュピュッ、ビュクン!



ドヴァキンは遂に任務途中の遊びを切り上げ、激しい責めに汗を滲ませいっそう濡れ光る瑞々しいオーク少女の尻に、白濁した男の体液を撃ち放ったのだった。


∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫



-- 実に運が良かった

起き上がりベッドを降りようとしていた「美食家」バラゴグ・グラ・ノロブは、そんな風に感じていた。


この男は何らかの目的で自分を殺害しに来た刺客であろうことは明らかであった。そしてその相手に自分は、敗れた。次には相手の思うままに陵辱され、最後に殺される。仕方のないことだ。マラキャスよ照覧あれ!


だがその最中、美味しい食事が肉体の快感に変わるだけでなく、その逆、性交が美味なる味わいをもたらすという奇跡を体験することができた。それも単なる美味ではない。これまで味わったことのない、極上の旨味に満ち溢れていた。


自分はそれを繰り返し、失神寸前になるまでたらふく味あわされた。それを知ることができた。満足だ。もう、これ以上は食べられない。
ベッドを降りる。服を着る様に言われた。


良いだろう。故郷の要塞では考えられなかったことだが、美味を追い求める旅に出ていくつもの街を巡るうち、自分は衣服で身を装うということを覚えた。一番自分に似合い、自分を可愛らしく見せる服をいくつも試着して、そうして選んだ服だ。楽しかった。


これはあの男の慈悲と考えておこう。最期の瞬間にはこの身を覆う純白のスカートとタイツが私の真っ赤な……

「ぐぼぉぉっ……!!」


何故! いきなり! 私の最期……もう……なのに……


視界はそのまま無慈悲に暗転した。


∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫


バラゴグの強靭な腹筋を拳で突いて気絶させ、ドヴァキンはやれやれと息を吐いた。


この女の身体を味わい尽くすためには殺すわけにいかない。それにバベットは「美食家」の料理のファンだと言っていた。ほとぼりが冷めてから料理を作らせれば、面白いことになるかも知れない。


幸い、馬を走らせれば半日と経たずにウィンドスタッド邸に辿り着ける距離だ。この女は当分、地下室に閉じ込めておけばいい。今だって地下の部屋で寝起きしていたのだし、そう変わりはしないだろう。


街道を避けて森の中や山道を選び、手に入れたばかりの愛馬シャドウメアの背にぐったりと意識を失ったバラゴグを乗せて、夜の闇を疾駆するドヴァキン。


これより後、オークの自称作家であり旅行者、バラゴグ・グラ・ノロブは大金を払い込んだ旅館ナイトゲートから姿を消し、消息を絶ったのだった。

2 件のコメント:

  1. Σ†性の理を啓す者†Σ2020年2月3日 16:06

    以前から愛読してる者です。
    遅くなりましたが、おかえりなさい。
    力に煩いオークっ娘が力に支配されるんですね!
    後々が楽しみです!
    無理せず書いてください。続き待ってます。

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  2. 更新ありがとうございます!
    楽しみにしてました!

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