ようやくこの胸苦しさから解放されるかとエンモンが思ったのも束の間のことだった。
膝立ちの体勢から仰向けに倒れこもうとするメナ。それを男の力強い手ががっしりと支えた。男は自ら仰向けに寝ころがりながら、メナのくびれた腰を両手でつかみ軽々と持ち上げる。
男はいまだ屹立していた。
騎乗位での淫交が始まるがほどなく、男が腰を止める。
と、男の手が下からメナの顔にのびた。べったりと拡がった精液をヌルヌルといやらしく塗り広げている。いや、塗り広げるというよりもすり込んでゆく。それも目の周りを執拗に。
やがて粘ついた液に黒い色が混じり始める。暫くの後、男は手探りでバルコニーの床に放り捨ててあったメナの衣服をつかむと、それで彼女の顔をぐいと拭き取った。
そして男が下からの律動を再開する。
疲労の極にありながら、この刺激に揺り動かされてメナの意識が覚醒に向かう。
悩ましげな様子で上下に揺り動かされるその素顔。
エンモンはかつて、夫婦の営みの時ぐらいは戦化粧を落として欲しいとメナに頼んだことがあった。
「駄目よ、あなたもリーチの男ならわかるでしょう、戦化粧が私たちにとってどんな意味を持つものか。本当に心構えを解いて良い時なんて、絶対にないのよ」
いつもの通り、きっぱりとした拒絶。だがその後、
「…それに私、垂れ目だから…子供の頃からトロそうな奴だって馬鹿にされてて…だからあなたの前ではキリッとした顔でいたいのよ…」
「駄目よ、あなたもリーチの男ならわかるでしょう、戦化粧が私たちにとってどんな意味を持つものか。本当に心構えを解いて良い時なんて、絶対にないのよ」
いつもの通り、きっぱりとした拒絶。だがその後、
「…それに私、垂れ目だから…子供の頃からトロそうな奴だって馬鹿にされてて…だからあなたの前ではキリッとした顔でいたいのよ…」
はにかむ様にうつむきながらつぶやいた妻のあまりの愛らしさに、エンモンは思わず彼女を抱きしめたのだった。
だが。
今。
その妻が、初めて会った見知らぬ男に素顔をさらして、女の部分を貫かれてあえぎ、もだえ、よがり鳴いている。
メナの意識は朦朧としていた。
エンモンが目覚める前にも散々弄ばれ犯されて、息も絶え絶えの状態だったのだ。持てる気力を総動員して男を射精に導いたところで精も根も尽き果てていたのに、底なしの精力を持つ男が再び行為を始め、強制的に目覚めさせられた。
だがエンモンの目には…。
- メナ、そんなにいいのか! 俺とのセックスではそんな声をあげることはなかったじゃないか!
愛する妻が、昨晩初めて出会った見知らぬ男との行為で、まるで見せつける様に快感と悦楽の絶頂に自ら昇りつめる牝に変貌していく。その様に映っていたのだった。
戦化粧の落ちた優しげな顔が切ない表情を浮かべ、メナの上体がぴんと反り返る。
男がひときわ強く突き上げ、そしてがっしりとメナの尻をつかんで腰を震わせる。
明らかに男は射精していた。その欲望を思いのままに、エンモンの妻の子宮の最奥部に注ぎ込んでいるのだ。
よろよろとエンモンはバルコニーへのドアから離れた。
慎重に戸を閉め、そしてベッドに倒れ込む。
∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫ ∫
- もう、この子しかいない、俺を救ってくれるのは…
エンモンはすがる様に、神々しさを増した娘の顔に見入るのだった。
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