リッケ特使付きのメイドを先輩と交代していったんウィンドヘルムに戻ったアベンタス・アレティノは、もはや住む者もいなくなった我が家の整理をしていた。
整理といっても家宝の銀器の皿以外にはろくな家財もなく、あっという間にやる事がなくなってしまう。
- それにしても、うちの物ってこんなに少なかったっけ?
そんな疑問も今となってはさして気にもならない。
やがて買い物をしようと思い立ち、街へ出た。
その帰り道。
アレティノは一人のダンマーの少女と出会った。
- しまったぁ……
ドール城内、帝国軍衛兵の宿舎でむくつけき男たちに取り囲まれたメイド服の少女。
若返ったリッケ特使を元通り老け顔に見せるための化粧など、身の回りの世話をするための小間使いとして送り込まれたアベンタス・アレティノであった。
アレティノはまた闇の一党の見習いでもあり、闇の一党の幹部であり殺しの技術のトレーナーであるバベットから、
- ドール城の中で帝国の兵士さんたちを殺せる隙があるかどうか観察しなさい。上手にできそうだったらひとりくらいなら殺しちゃっても良いわ
との指示を受けていた。暗殺稼業の実践的な演習というわけである。
そこで深夜、短剣を手に兵士たちの寝所へ入り込んだところ、見回りから戻ってきた衛兵のひとりにあっさりと見つかってしまったのだった。
スカイリム駐留帝国軍、リッケ特使。
生粋のノルドでありながらも、帝国軍に身を投じ数え切れぬ程の戦場を経験してきた軍人である。
ストームクロークとの内戦においては、新たに派遣されたティリウス将軍の片腕となり更にその名声を高めていた。
その齢は四十を越え、鍛錬は怠らぬもののさすがに肉体の衰えは隠せぬのか最近では左目の不調を訴えて常に眼帯を着けており、また公務以外では自室にこもりがちとなっていた。